オーダーメイド殺人クラブ/辻村深月
クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は―。
特に倖みたいな子って本当よくいる。一人になりたくなくって、自分が攻撃されないように誰かターゲットになりえる子がいたら、徹底的に同調する。あくまでも、同調。芹香みたいな強いボスの側で、機嫌を伺いつつもターゲットの子にも隠れていい顔する。
大人になった今だからそこ「嫌いだわ~」って思えるけど、中学時代こういう子に少しでも優しくされるだけでちょっと安心してたこともあったなあ。
学校という狭い社会の中ではこういう、死ぬより怖いことって山ほどある。給食食べるとき机くっつけてもらえなかったり、体育の二人一組で誰も組んでくれなかったり、何かの班決めるときに、この間まで仲良かった子達がグループ組んでワイワイしてるのを横目に自分以外の余ってる人と寄せ集めで組まされたり。
自分がはずされたら何をしてても明日から一人なんだって感情が巻き起こって、逆にグループにまた入れてもらえたり、優しくされたらそれだけで力がみなぎるような気がして。
いつしかアンと中学時代の自分を重ねて読んでしまってた。私は死にたいとか考えたこともなかったけど、アンはその渦中で悩み苦しんで、全部捨てたいって感情もオーダーメイド殺人の動機の一つになったんだと思う。
今思えばどうでもいいような悩みもあの頃の自分にとっては、文字通り死ぬほど重要で、小さな小さな社会の縮図の中で、一人を貫くなんて相当な重圧。
そんな中で世間を驚かせ、誰もがあの事件から何年~って数えるような死に方をしたいと
話すアン。中二病って言葉で簡単に片付けられる感情かもしれないけれど、誰しもが一度は通る道だと思う。自分はほかの人間とは違う、特別な才能を持っていると信じたくなる。ただ、アンはその特別を自分の命を使って手に入れようとする。徳川に、前代未聞の事件を起こしてもらうことで。
そしていつしか徳川に殺されることを心の支えとして生活するようになる。「大丈夫、来年もう自分はここにはいない。徳川が私を殺してくれる」
私もよくこの連勤乗り越えたら旅行にいけるとか、このタスク全部処理したらビールのみながらアニメ観るとか(笑)
そういう先の事を楽しみにして目の前のやるべきことこなすことあるけれど、死を楽しみに今を生きるって味わったことのない感覚。でも楽しみにしてることが違うだけで、根本は私もアンもきっと変わらない。
なのに全編通してアンが時々「本当に死ぬ気ある??」って発言するところが個人的には面白かったです。
欲しい本に対して「お金がないから買えない」って言ったり、そもそももう死ぬなら女子同士の揉め事も気にしなきゃいいのに。
そこが絶妙に中学生って感じでよかった。
一方で依頼を受ける徳川はアンとは真逆のクラスの昆虫系男子。昆虫系っていうのは虫が好きって意味ではなく、世間的に分かりやすい言葉でいうと所謂"陰キャラ"(私はこの言葉大嫌いです。)
ここではこれ以上は徳川については語りません。
私的にこのブログに綴る本の感想のコンセプトは"後に本を読んでもらう"だから。
ただ読み終わったあと、あの時やこのシーン、徳川はどんな気持ちだったんだろう。って胸がいっぱいになることだけは残しておきます。
中学二年生という大人にはなりきれないけれど、大人が思うほど子供じゃない。
そんなアンと徳川が導き出した少し切ない結末を是非見届けてほしいです。
あと、これは余談ですが、アンや徳川が住むのは、長野県上田市。情景から察するに長野県では?と思っていたら途中に明言するシーンがあってちょっと嬉しかったです。
行きの新幹線で読み始めて、早々にホテルで熟睡してしまった同行者の寝息をBGMに、一気に読破したのも良い思い出です。
趣味と生活のおぼえがき
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